2010年2月28日日曜日

実体験

早稲田は入試期間も終わり,大学も普通に開放されて,気分的にもキャンパスの風通しがよくなった(それと同時に私の研究室がある建物は耐震工事が始まってしまったが).国公立も前期入試が終わり教員の皆さんもほっと一息というところだろうか.後期がまだあるのには同情を感じるが.

今日はチリ地震による津波の警報が出るわ,雨は降るわの悪条件であったが,30万人以上が参加する東京マラソンが新宿の都庁周辺からスタートしたとのこと.私は小田急サザンタワーのFedEX Kinko'sに用があったので,研究室に寄った後その時間を避けて新宿に赴いた.幸い私が行った頃は快晴で,それほど寒くもなく空気に透明感がある清々しい気候だった.

Kinko'sで仕上がりに1時間ほどかかると言われたので,近所のドトールでコーヒーを飲みながら先日大学生協で買った森博嗣氏の『創るセンス工作の思考』を読んだ.同じ集英社新書から出ていてこのブログでも軽く触れた『自由を作る自由に生きる』と連動しているとのことであるが,個人的には『創る...』の方が楽しんで読むことができた.

私は割と手先を使って何かを作ることは好きで,幼稚園の時に夏祭りの夜店で父親に買ってもらったプラモデルをセメダインを使って必死に組み立てたのは今でもよく覚えている.その後,エルガイム,バンダイン,バイファムなんかのプラモデルを作っていて,小学校2年生のときにラジコンに興味が移りタミヤのホーネットというRCを組み立てた.その後もお小遣いを貯めて8.4Vバッテリーにテクニゴールドモーターを備えた,由良拓也氏デザインのビッグウィッグも組み立てたし,F1にはまっていたのでオンロードの1987年の中嶋悟仕様ロータスホンダも手に入れた.やっぱり通は2WDだよなどとほざきアスチュートという2輪駆動のマシンにはまっていたこともある.

こういうのはあくまで既製品の組み立てであって,森氏の言う工作には当てはまらないようだが,理想化された頭の中の世界と現実とのズレの経験という意味では多少共通するところはあるだろう.最近はコンピュータの普及もあって,比較的容易に理想化された環境というのを作り出すことができるので,所謂「実体験」というのが遠いものになりがちというのは確かである.工作的思考というのはその意味では工学分野のみならず,ある種の教養として重要なのかもしれない.

2010年2月20日土曜日

「脳科学と社会」シンポジウム

昨日ハイボールのところで五木寛之氏について言及したが,今日新宿を歩いていたら,五木氏が直木賞の選評コメントに大きな間違いをしてしまい自ら審査員を辞任する,というニュースが電光掲示板に流れていた.単なる偶然だが,誰かさんのようにここがデスブログにならないといいのだが...

今日は「脳科学と社会」のシンポジウムがあったので行ってきた.両国であったので,大江戸線という漫画に出てきそうな名前の地下鉄に初めて乗った.6の字形に走っていて,進行方向がよく分からない地下鉄である.両国駅には江戸東京博物館なんてのもあった.「江戸」と強調している割には,大して歴史のある建物がないのが東京らしい.

シンポジウムは結構大入りで盛況であった.内容も総括である日立製作所の小泉氏の導入(私の父親は若い頃日立製作所で電子顕微鏡やスーパーコンピュータを扱っていたらしいので,ちょっと親近感が湧く),JSTの研究開発センター長で元東大総長の吉川氏の基調講演は,巨視的で切り口が面白くとても楽しめた.その後の研究発表もJSTが強力に資金注入した双生児,言語習得,学習意欲,発達障害への脳科学的アプローチに関するプロジェクトの成果報告だけあって充実していたように思う.

ちなみに休憩時間に「こんにちは」と見知らぬ年配の方に声をかけられたので,この人どっかで会ったかなと困っていたら,単に脳波測定ができる人を探しいている人だった.7年間も探しているそうだが,本気で研究するつもりだとしたらありえないことである.その程度のレベルではやめておいた方が身のためですよ,とはさすがに言わなかったが.

私の分野に一番近い発表だと首都大の萩原裕子さんの言語習得のプロジェクトであるが,不純な見方ながら,お金がかかってるなぁ,というのが第一印象であった.脳波測定トポグラフィー2台を積んだ移動式トラックを作り被験者の脳波測定をして,日立製作所にデータ解析してもらうというのは,なんともすごい話である.ただ研究対象が小学生ということで,自治体,教師,保護者との交渉で大変苦労されたようだし,プロジェクトの規模が大きいだけにプレッシャーも大きかったのではないかと想像する.プロジェクトには,私のいたイギリスの大学院の先輩が参加していて(時期が数年ずれているのでお会いしたことはないが),今回の萩原さんの発表でもfirst authorで論文がいくつか言及されていたので,大いに活躍しておられるようである.

シンポの後,久々に東京の東側に来たので秋葉原に寄っていったのだが,ヨドバシをぐるりと見ただけですっかり疲れてしまって,そのまま帰ってきた.まあ色んな最新の製品を見て「すげー」と言ってるだけで,結構楽しいのでいいんだけど.

2010年2月19日金曜日

ハイボール

今週は前半は色々と忙しかったが,後半は特に予定も入らず先日出し損ねたアブストラクトをちまちまと書いたり,イギリスの元指導教官と研究の意見交換をしたり,といい感じである.

唯一面倒くさかったのは,Program Chairをしている学会の仮ウェブサイトにTravel Informationを作ったことだろうか(仮サイトなのでデザインも何もあったものではないが).東北大で開催されるので,最初は東北大の英語サイトにある交通アクセスのページにリンクを貼るくらいでいいだろうと思っていたのだが,そのサイトには仙台付近の地図が載っているだけのもの必要な情報が決定的に不足しているものしかなく,肝心の「そもそも仙台という都市に海外からどうやって行くか」がよく分からないという摩訶不思議なものであった.結局成田,羽田から東京駅,上野駅経由で仙台に行くルートを自分で細々と書くことになってしまった.学会に海外から参加するときなどは(特に日本のようにあまり英語が通じない国に行く時は),まさにこういう情報こそ必要だと思うのだが(実際は私が書いたものでも多分足りない),大学がちゃんとした交通アクセスの情報を用意してくれていないととても困る.東北大の先生は国際学会開催の際はいつもどうしているのだろうか.

閑話休題.ちょっと前から,巷ではハイボールが何やらよく取り上げられている.私が「ハイボール」という言葉に触れたのは,確か大学生時代に五木寛之の『大人の時間』を読んでいた時に見たのが初めてだったと思う.どういうものかよく分からなかったので(そもそもチューハイとかウーロンハイの「ハイ」の意味が分からなかった.hi?high?それとも英語ではないのか.今でも正確には知らない),調べてみるとウィスキーをソーダで割ったものだという.私はスコッチをロックかほんのわずかに水を加えて飲むのが好きだし,その小説の中身のせいもあって自分の親父世代(団塊世代)の飲み物な気がして試さずにいた.Zakk Wiydeが飲んでいるのを見てウィスキーコークは作って飲んだことはあるのだけれど(アメリカらしい発想の酒だった).

でも先日冷蔵庫にウォッカソーダを作ろうと買っておいたソーダ水があり,棚にバランタインもあるのを見て,ふとハイボールを作ってみることにした.結果,なるほどなぁ,という感じである.ウィスキーの仄かな香り,苦味,甘みに炭酸の爽快さが加わった面白い飲み物である.ストレートやロックではきつすぎる,水割りは味気ない,という人たちにはうってつけの飲み物なのかもしれない.私は今まで通りロックの方が好きだけど,この先痛風が怖くてビールが飲めなくなったら,ハイボールにしようかな.

2010年2月15日月曜日

学生連携

ろくにブログを更新しないまま,もう2月も半ばを過ぎてしまった.大学も入試シーズンに入り,私の所属する学部の入試も終了した.約1ヶ月間学生の立ち入りが禁止され,教員も限られた門から職員証を見せて出入りしなければならない.結構面倒である.今あるセコムのセキュリティカードで認証してキャンパスも建物も入れるようにしたら良いと思うのだが,やはり大学全体の規模でやるにはコストの問題があるのだろうか,それともセキュリティが甘くなるのだろうか.あるいは『ガタカ』みたいにするとか.

先日,今年1年間教えた1年生の学生から,この夏に東京でアジア諸国の法学生とともに様々な問題を議論する会合を開くための助成に応募するから推薦状を書いて欲しいと(とても丁寧に)お願いされた.100人以上の参加者で1週間ほど開くというから結構な規模である.趣旨もとても共感できたし,企画もよく練られていた.とても優秀なのはもちろん教えていて分かっていたけれど1年生にして実行委員長をしているその学生の活動力に素直に感心してしまった.私の推薦状がどれほどの効果があるか分からないが,無事助成をいただいて,企画を成功させて欲しいと思う(私も覗いてみたいくらいである).

そんな学生の姿を見て,ふと自分の院生時代を思い出した.2002年にマンチェスターのUMISTで開催されたイギリス言語学会で生まれて初めての学会発表をした際に,ヨーク大学の院生だったAlexandara Galaniと知り合いになり(形態論をやっている学生はほとんどいないので,すぐ知り合いになる),翌年ケンブリッジのPostgraduate Conferenceで再会したときに一緒に形態論のワークショップを定期的に開こうと意気投合してYork-Essex Morphology Meetingというのを立ち上げた(ウェブサイトは私が個人的にエセックス大学のアカウントで作っていたのでもう消えていると思ったら,お願いしなくても言語学科が引き続き管理してくれていた.ちょっと感動).イギリス言語学会に資金援助をお願いし,ありったけの人脈を使ってイギリスやヨーロッパの研究者に参加をお願いし,知り合いの大学院生にも「ちょっとでも形態論に関係あればいいから」と発表を勧めた(こうでもしないと形態論は発表者が集まらない).もちろん会場の手配,ティーブレイクの飲み物やお菓子の買出しから,会合後の懇親会の場所探し,学生用の安価なB&Bのリスト作成まで全部Alexと日々電話で相談しながら2人でやった.

今思えば無謀なことをしたものだと思うが,なんとか自分たちの専門分野を活性化したいという大学院生2人に多くの人が惜しみない援助をしてくれたのがなにより心強く,ゼロからの立ち上げということで学問以外の面でも学ぶことが多かった.世界的に見れば,長い歴史を持つアメリカのCLSやBLSも院生が立ち上げたもので,今だって院生によって運営されているし,ヨーロッパのConSOLEもそうである.イギリス国内にもPostgraduate Conferenceは複数ある.

あまり偉そうに発破をかけたくないのだが,日本もちょっとくらいそういう学生主体の全国的な学会があってもいいんじゃないだろうか.日本英語学会にStudents' Workshopというのがあるが,ああいう既存の学会に乗っかって3つか4つのワークショップをやっても盛り上がらないだろう.それよりも自主的に企画運営する学生独自のワークショップを援助してあげた方が彼らのためになるのではないかと思う.大学院生の皆さんも,こんな狭い国だし電子的に簡単に連絡が取り合えるのだから,連携して学会なりワークショップなりを立ち上げてみてはいかがだろうか.欧米でPhDを取ってきた研究者が多い今なら結構サポートもしてもらえると思うのだけど... 法学の学部生にできて,言語学の大学院生にできないはずないよね(というのはいじわるな言い方か).

2010年2月1日月曜日

大雪?

今日は東京も雪である.それほど積もってはいないが,大雪注意報も出て,電車も遅れていた.たった3年ではあるが雪国生活を経験していて良かったと思う瞬間である(「なんだこの程度か」と粋がることができる).

毎月1日は映画の日なので,予定が入ってないと大体帰宅前に新宿に寄って映画を観ている.今日はバルト9で『ゴールデンスランバー』を鑑賞.伊坂幸太郎原作小説の映画化で,小気味良い笑いとどことなく期待通りの展開で安心して楽しめた.こういうのは変にリアリティを求めて「ありえねぇよ」なんて突っ込みながら観てはいけない.調べてみたら主演の堺雅人さんは早稲田出身で(中退だけど)学生時代から演劇で活躍されていた人なのね.とても良い役者さんだ.

一転暗い話題になってしまうが,イギリスから不穏なニュースが聞こえてきた.ロンドン大学のKing's College (KCL)が全体で10%の教員数削減を計画していることに伴ない,計算機言語学を廃止し3人の教員を解雇,1人を早期退職させるという発表がなされた.KCLは我々に関係するところでは意味論の研究が強く,その解雇されるという人々も当該分野で世界有数の研究者である.私も含め世界中の335名の研究者が反対声明にサインをし,KCLの執行部に送られたがどうなるかは難しいところである.ひとまずは動向を見守るしかなさそうだ.
 
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